配当データの一生 — 予想から確定まで
企業が公表する配当情報は、確定値が一度だけ出るものではありません。決算のたびに「予想」として公表され、その後何度かの「訂正」を経て「決定」に至る——この更新の積み重ねがそのままレコードとして残る設計です。取り込み側のパイプラインは「1つの配当=複数レコード」を前提に組む必要があります。
この記事では、J-Quants API の配当金情報(/fins/dividend)を使って、1つの配当が「予想 → 修正 → 確定」とどのように更新されていくか、実際のレコードを追いながら構造を確認します。あわせて、配当に関する日付フィールド(基準日・権利落ち日・支払日)の関係も、実データの集計で見てみます。
この記事はデータの構造・読み方の紹介であり、特定銘柄の配当額を評価するものではありません。増配・減配という語を使う場合も、レコードの変化を描写するに留め、評価とは結びつけません。
本記事の集計・図表は 2025年8月〜2026年6月 時点で取得したデータに基づきます。
このデータは何か
配当金情報(/fins/dividend)は、上場企業が適時開示として公表する配当に関する情報を収録したデータです。1件のレコードは「ある時点で公表された、ある配当(期末配当・中間配当など)の内容」を表し、同じ配当について予想の段階のレコードと、確定した段階のレコードの両方が含まれます。
主なフィールドは次の通りです(jquants schema fins.dividend で確認できる23項目の一部)。
- PubDate / PubTime:このレコードが公表された日時
- StatCode:更新区分(1=新規、2=訂正、3=削除)
- FRCode:予想/決定の区分(1=決定、2=予想)
- IFCode:配当種類(1=中間配当、2=期末配当)
- BoardDate:取締役会決議日
- IFTerm:配当基準日年月(どの期の配当か)
- DivRate:1株当たり配当金額
- RecDate:基準日(この日の株主が配当を受け取る権利を持つ)
- ExDate:権利落ち日
- PayDate:支払開始予定日(未定の間は「-」)
- RefNo / CARefNo:配当通知を特定するリファレンスナンバー/訂正・削除の対象となった通知のリファレンスナンバー(新規の場合は自身と同じ値)
ポイントは、予想か決定かは FRCode で明確に区別できるという点です。あわせて、RecDate・ExDate は予想の段階から入っている一方、PayDate(支払開始予定日)は未定の間「-」のままで、決定のレコードで日付が入ります。
配当データの一生:予想 → 訂正 → 決定
実際のレコードで、1つの配当がどう更新されていくかを見てみます。対象は日本取引所グループ(8697)です。銘柄選定基準は「本APIの提供元」という機械的な基準で、業績や配当額による選定ではありません。2026年3月期・期末配当(IFTerm=2026-03、IFCode=2)のレコードを時系列に並べると、次のようになりました。

- 2025-04-28:期末配当の予想として 22.0円 を新規公表(StatCode=1・FRCode=2〈予想〉、PayDateは「-」)
- 2025-09-24:25.0円 に訂正(StatCode=2、FRCode=2のまま)
- 2025-10-29:同じ25.0円で再度公表(StatCode=2。金額の変更を伴わない公表もあります)
- 2026-03-25:期末が近づいたタイミングで 36.0円 に訂正(StatCode=2)
- 2026-03-30/03-31:権利落ち日(ExDate=2026-03-30)・基準日(RecDate=2026-03-31)。この2つの日付は最初の予想公表(2025-04-28)の時点からレコードに入っており、確定まで変わっていません
- 2026-04-28:本決算発表にあわせて 36.0円の決定(FRCode=1) を新規公表。このレコードで支払開始予定日(PayDate=2026-05-29)が入る
同じ配当が、複数の決算発表・開示のタイミングで何度も更新され、最後に FRCode=1(決定) のレコードが公表されて確定に至ることが分かります。予想段階の訂正レコードは、CARefNo が最初の予想通知のリファレンスナンバーを指す形で連なっています。DivRate は22.0円から36.0円へと、公表のたびに更新されていることが分かります。
日付フィールドの読み方:基準日・権利落ち日・支払日
配当には複数の日付フィールドがあり、それぞれ意味が異なります。
- 基準日(RecDate):配当を受け取る権利が確定する基準となる日
- 権利落ち日(ExDate):基準日の権利を得るために株式を保有しておくべき期限の翌日にあたる日
- 支払日(PayDate):実際に配当が支払われる日(確定前は「-」)
前のセクションで追った日本取引所グループ(8697)の期末配当では、基準日が 2026-03-31(火)、権利落ち日がその前営業日の 2026-03-30(月)で、暦日差は1日でした。
配当の基準日(RecDate)がどの月に多いかを、全市場・2025年8月〜2026年6月に公表されたデータ(銘柄×基準日でユニーク化した16,082件)で集計すると、次のようになりました。

3月・9月の合計が全体の60% を占めています。多くの企業が3月期・9月期を決算期としているため、その期末が基準日となる配当が集中するかたちです。
読み方の注意
- 予想は変更されることがあります。DivRate は公表のたびに変わりうる値で、FRCode=2 の間は予想値です。過去の予想レコードは削除されず、訂正の履歴として残ります。
- 予想か決定かは FRCode(1=決定、2=予想)で区別できます。決定のレコードには支払開始予定日(PayDate)も入ります。
- 訂正の連なりは CARefNo で追えます。訂正レコードの CARefNo は訂正対象の通知のリファレンスナンバーを指します(新規の場合は自身と同じ値)。決定は新しい通知として公表されるため、予想の連なりと決定のレコードは、銘柄・IFTerm・IFCode を揃えて突き合わせます。
- この記事で示した日数差・月別分布は、データの構造を説明するための集計です。
- /fins/dividend は Premium プランで利用できるエンドポイントです。取得できるデータ・期間はプランにより異なります。本記事の集計には bulk get(バルクダウンロード)を使用しています。
再現方法(CLI)
この記事の集計は、以下のコマンドで再現できます(jquants CLI・要ログイン)。
ステップ1:フィールド名を確認
jquants schema fins.dividend
ステップ2:個別銘柄の配当履歴を取得(例:日本取引所グループ 8697)
jquants fins dividend --code 86970
ステップ3:ある月に公表された全銘柄の配当レコードを取得
jquants fins dividend --date 2026-04-28
ステップ4:全市場・期間集計にはバルクダウンロードを使用
jquants bulk get --endpoint fins/dividend --date 2026-04 --download
ステップ5:解凍してCSVを集計
gunzip fins_dividend_202604.csv.gz
解凍後のCSVを、RecDate・ExDateの日数差や、CARefNoで同一配当をグルーピングするなどして集計します。本記事の集計は Python の csv.DictReader + collections.Counter で実装しました。
まとめ
- 配当金情報(/fins/dividend)には、予想の段階のレコードと確定した段階のレコードの両方が含まれます
- 1つの配当は、予想(FRCode=2)の新規公表・訂正を経て、決定(FRCode=1)のレコードが公表されて確定します。今回追った8697の例では、22.0円→25.0円→36.0円と更新され、2026-04-28に36.0円・支払開始予定日2026-05-29で決定に至りました
- 基準日(RecDate)と権利落ち日(ExDate)は予想の段階からレコードに入っており、8697の例では暦日差は1日でした
- 配当の基準日は 3月・9月に集中しており(全体の60%)、多くの企業の決算期が反映されています
本記事は、開示データの「更新の積み重ね」を追う連続シリーズの第1回です。続編の「企業の開示は何回『訂正』されるのか」では、このデータを訂正頻度の観点から集計しています。
関連する仕様ページ
本記事の図は、過去の一時点のデータを集計して切り出したものです。最新のデータや、銘柄・期間・条件を変えた集計は、J-Quants API で取得・再現できます(取得できるデータ・期間はプランにより異なります)。
この記事は J-Quants 公式 X(@jpx_JQuants)で公開した記事を、加筆・再構成したものです。