SQの日、売買代金は本当に膨らむのか — 15回のSQ日を全銘柄の日足で確かめる
3・6・9・12月の原則第2金曜日は、一般に「メジャーSQ」と呼ばれます(第2金曜日が休業日の場合はその前営業日になります)。日経225先物・オプションの最終清算値(SQ値=特別清算指数)が、この日の各構成銘柄の始値から算出されます。SQ日の寄り付きには、先物と現物の裁定ポジションを解消する売買が集中する——これは市場関係者の間ではよく語られる説明で、「SQの日は売買代金が膨らむ」「寄り付きが荒れる」と表現されます。
データではどう見えるのか。J-Quants の株価四本値(/equities/bars/daily)には、前場と後場の売買高(MVo/AVo)・取引代金(MVa/AVa)が別々に入っています(Premium プランで提供される項目です)。この2つの列を全上場銘柄で足し上げれば、分足を使わなくても「1日のどちら側に売買が寄ったか」が見えます。そのうえで株価分足(/equities/bars/minute)を全銘柄分足し上げ、「前場のどこか」まで確かめます。
本記事は市場データの事実提示です。特定の売買タイミングや銘柄を推奨するものではなく、相場の先行きにも触れません。取得できるデータ・期間はプランにより異なります(前場・後場の項目は Premium プラン、株価分足はアドオン契約)。
シリーズ「株価四本値を追う」第1回:株価四本値(/equities/bars/daily)の列を1つずつ主役にして、そこから何が読めるかを確かめていきます。第1回は前場・後場の売買代金(MVa/AVa)です。
本記事の集計・図表は 2026-09-04(集計期間は 2025-06-02〜2026-09-04) 時点で取得したデータに基づきます。
SQとは — 先物・オプションの「最終清算値」
株価指数先物・オプションには満期があり、満期日(原則として各限月の第2金曜日)に清算値が決まります。この清算値が SQ値(Special Quotation=特別清算指数) で、指数を構成する各銘柄のその日の始値をもとに算出されます。
- メジャーSQ:3・6・9・12月の原則第2金曜。先物とオプションの両方が満期を迎える月を指すのが一般的です
- マイナーSQ:それ以外の月の原則第2金曜。主にオプションが満期を迎える
いずれも第2金曜日が休業日の場合はその前営業日になります。満期日や対象商品の扱いは商品や制度改正によって異なる場合があるため、正確な日程は取引所の公表資料をご確認ください。
先物と現物のあいだで裁定取引を行っている参加者は、満期に合わせて現物側のポジションを寄り付きの板寄せで解消することがあります。これが「SQ日の寄り付きに売買が集中する」と言われる理由として挙げられます。
使うデータ
- 株価四本値(/equities/bars/daily) — 売買代金(Va)に加えて、前場の売買代金(MVa)・後場の売買代金(AVa) が別列で入っています
この「前場/後場に分かれている」点が本記事の主役です。1日の売買代金のうち前場が占める割合(MVa ÷ Va)を 前場シェア と呼ぶことにします。
なお、前場・後場の項目(MO〜MVa、AO〜AVa)は Premium プランのみで提供され、他のプランではレスポンスにキー自体が含まれません。売買代金(Va)そのものは全プランで取得できます。
取得コマンド(jquants CLI・要ログイン):
# 全銘柄・1日分の日足(MVa/AVa は Premium プランのときだけ含まれる)
jquants -o csv --save daily_20260612.csv eq daily --date 2026-06-12
集計方法
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 対象 | J-Quants で取得できる全上場銘柄(ETF・REIT 等を含む 4,648 銘柄) |
| 期間 | 2025-06-02〜2026-09-04(310 営業日) |
| SQ日の判定 | 各月の第2金曜日(休場なら直前の営業日)。3・6・9・12月をメジャー、それ以外をマイナーとした。期間中にメジャー5回・マイナー10回 |
| 売買代金の倍率 | 当日の全銘柄売買代金 ÷ 前後10営業日(当日を除く)の中央値 |
| 前場シェア | 全銘柄の MVa 合計 ÷ Va 合計 |
「前後10営業日の中央値と比べる」のは、期間中に市場全体の売買代金が大きく増えているためです(2026年5〜7月は月間で見ても売買代金が多く、売買代金の絶対値だけで並べると上位10日のうち9日がこの3か月に集中します)。絶対額ではなく、その時期の水準に対する倍率で見ます。
実測① — 売買代金の倍率は、この期間では中央値で約1.1倍

- メジャーSQ5回の倍率:1.28・1.11・1.26・0.98・1.09(中央値 1.11倍)
- マイナーSQ10回の倍率:中央値 1.09倍
- 15回のうち 1.0倍を下回ったのは2回(2026-03、2026-07)
この期間に限れば、「SQ日は売買代金が膨らむ」という見方とおおむね整合する数字です。ただし倍率は1.1倍前後にとどまり、前後の日と比べて桁が変わるような増え方はしていません。
注意点として、SQ日はいずれも金曜日でした。曜日別に売買代金の中央値を並べると、月曜 7.3兆円・火曜 7.4兆円・水曜 7.6兆円・木曜 7.9兆円・金曜 8.1兆円で、この期間では金曜が最も多くなっています。SQ日の倍率には、この曜日差が一部含まれていると考えられます(SQ日を除いた金曜の中央値でも、全営業日の中央値の約1.09倍)。「SQだから」で説明できる上乗せは、1.1倍のうちのさらに一部 とみるのが妥当でしょう。
実測② — 前場シェアは、メジャーSQ日で通常日との差が大きかった
売買代金の総量よりも差が大きく出たのは「1日のどちら側で売買されたか」です。

- 全営業日の前場シェア:中央値 50.3%(25-75%帯 48.2〜52.0%)
- メジャーSQ日5回:60.5% / 58.1% / 56.8% / 56.2% / 56.2%
- マイナーSQ日10回:中央値 52.5%(50.6〜56.1%)
通常の日は前場と後場がほぼ半々です。この期間のメジャーSQ日は5回とも、通常日の分布の上位25%点(52.0%)を上回り、310営業日のうち前場シェアが56%を超えた日は10日で、そのうち5日がメジャーSQ日でした。
この期間で見る限り、SQ日の違いは「売買代金が多い」ことよりも「売買代金が前場に寄る」ことに表れています。
実測③ — 分足で見ると、寄っているのは「最初の30分」
前場のどこに寄っているのか。株価分足(/equities/bars/minute)(アドオン契約が必要)を全銘柄分足し上げて、SQ日15回と、それぞれの1週間前の金曜(同じ曜日で揃える)を比べました。

| 売買代金シェア(全銘柄合計) | 前週金曜(15日の中央値) | マイナーSQ(10回) | メジャーSQ(5回) |
|---|---|---|---|
| 9:00 の1分足 | 4.0%(2.1〜6.5%) | 6.3% | 11.8%(6.0〜16.9%) |
| 9:00〜9:29 の30分 | 21.1% | 24.6% | 30.8%(26.2〜35.0%) |
| 15:30 の大引け1分 | 14.1% | 12.9% | 11.4% |
| 前場 | 51.1% | 52.5% | 56.8% |
比較対象とした金曜では、1日でいちばん売買代金が大きい1分は 大引けの15:30(12〜15%)で、寄り付きの9:00 は4%前後でした。メジャーSQ日ではこの関係が入れ替わる回があり、2025-06-13(14.0%)と 2025-09-12(16.9%)では 9:00 の1分足が大引けを上回って1日の最大となりました。寄り付き30分で見ると、メジャーSQ日は5回とも26%以上で、対応する前週金曜(19〜25%)をいずれも上回っています。
なお 2026-03-13 と 06-12 は 9:00 の足が6%台にとどまる一方、9:03 の足にも同程度の売買代金が乗っていました。寄り付きの板寄せが数分遅れて成立した銘柄が多かったと考えられる日で、「9:00 の1本」だけを見るとこの2回は小さく見えます。図と表で 最初の30分 も併記しているのはこのためです。
前場シェアの差(通常51%→メジャーSQ日57%)は、その大部分がこの寄り付き30分の差(21%→31%)に対応しています。前場の残りの時間帯や後場には、目立った差は見られませんでした。
データから言えること・言えないこと
- 言えること:この期間・この集計方法では、メジャーSQ日の寄り付き30分の売買代金シェアが通常日より約10ポイント高く、前場シェアの差の大部分がそこに対応していました。5回とも同じ向きの差が出ています。
- 言えないこと:寄り付きに寄っているのが「裁定解消の売買」だとデータが示しているわけではありません。売買代金は買い手・売り手の属性を持たないため、「誰が・なぜ」はこのデータからは読み取れません。冒頭の「SQとは」で触れた説明は制度から導かれる仮説であり、今回のデータはそれと矛盾しない、というのが正確な言い方です。
- 確かめた範囲:対象は2025-06〜2026-09の310営業日、SQ日15回(うちメジャー5回)にすぎません。別の期間・別の対象範囲(指数構成銘柄に限る等)で同じ集計をすれば、差の大きさや向きは変わりうるものと考えてください。本記事の数字は、あくまでこの期間で観測された値です。
使いどころ
- 日足だけで「日中の偏り」を見る:Premium プランなら、分足を使わずに MVa/AVa の2列で前場・後場の比率を計算できます。イベント日(SQ・決算・指数のリバランス日)の売買の偏りを、全銘柄・長期間でまず日足で確かめ、分足(アドオン・過去2年分)は「どの時間帯か」を確かめる段階で使う、という順番が取れる
- カレンダー効果の検証の型:「特定の日は◯◯だ」という定説は、(1)その日の値を(2)前後の日の中央値で割り、(3)曜日などの混同要因を確認する、という手順で検証できます。SQ日はその練習題材として扱いやすい
- 上位の異常日を探す:前場シェアが高い日を並べると、SQ日以外にも「前場に売買が寄った日」が見つかります。その日に何があったかを J-Quants の他のデータ(決算発表日:/fins/earnings-date、権利落ち日:/fins/dividend、株式分割の効力発生日:/equities/bars/daily の AdjFactor、市場カレンダー:/markets/calendar、適時開示:/td/list(アドオン契約)など)と突き合わせる入口になる
データを読むときの注意
- メジャーSQは期間中5回しかない。5回すべて同じ方向を示しているが、サンプルとしては小さい。年数を延ばして確認する余地がある
- 全上場銘柄の合計値であり、ETF・REIT・優先株等も含む。日経225やTOPIX構成銘柄に絞ると比率は変わりうる(SQ値の算出対象は指数構成銘柄なので、寄り付きへの集中は構成銘柄に絞るとより大きく出る可能性がある)
- 分足の比較対象は「1週間前の金曜」1日ずつ。通常日の分布として使うには日数が少ない
- 前場・後場の内訳は Premium プランのみ、分足はアドオン契約(過去2年分)が必要。取得できる項目・期間はプランにより異なります
- 売買代金の倍率は曜日差(この期間では金曜が多め)を含む。「SQ固有の上乗せ」はそれより小さいとみられる
- 本記事は過去の事実の集計であり、次のSQ日にも同じ比率になることを示すものではありません
再現方法
同じ集計を手元で回すための手順です。実行には J-Quants のアカウント(API キー)が必要で、使う項目によって必要なプランが異なります。
- 日足:月次バルクで 2025-06〜2026-07 を取得(14本)、8月以降は live の日別ファイル
jquants bulk list --endpoint /equities/bars/daily
jquants bulk get --endpoint /equities/bars/daily --date 2026-06 --download
- 分足(アドオン・過去2年):月次バルクから SQ 日と前週金曜だけを抽出
jquants bulk list --endpoint /equities/bars/minute
jquants bulk get --key equities/bars/minute/historical/2026/equities_bars_minute_202606.csv.gz --download
集計の要点(Python):
import pandas as pd
d = pd.read_csv("equities_bars_daily_202606.csv.gz")
day = d.groupby("Date")[["Va", "MVa"]].sum()
day["am_share"] = day["MVa"] / day["Va"] # 前場シェア
# 倍率=当日 Va ÷ 前後10営業日(当日除く)の中央値。SQ日=各月第2金曜(休場なら前営業日)
m = pd.read_csv("equities_bars_minute_202606.csv.gz")
sq = m[m["Date"] == "2026-06-12"].groupby("Time")["Va"].sum()
open30 = sq.loc["09:00":"09:29"].sum() / sq.sum() # 寄り付き30分のシェア
前場・後場の列(MVa/AVa)は Premium プラン、分足はアドオン契約が必要です。
関連する仕様ページ
この記事は J-Quants 公式 X(@jpx_JQuants)で公開した記事を、加筆・再構成したものです。